東京地方裁判所 昭和63年(モ)3789号 決定 1988年7月21日
申立人 丸茂裕和
右訴訟代理人弁護士 松尾翼
同 八木清子
同 奥野file_3.jpg久
主文
本件忌避の申立を却下する。
理由
一 本件忌避申立理由の要旨は、「鑑定人師田昇は、被告経営の病院と同種、同規模で、同病院と競合関係にある医院の院長の地位にありながら、これを秘して本件鑑定に臨んだものであって、本件鑑定事項につき利害関係を有していたと認められるべきであるうえ、同鑑定人は、呼吸器外科が専門であって、本件鑑定事項である腹腔(腹部)外科に関する専門的知識に欠けていたものであるところ、右各事実は、誠実な鑑定をなすことを妨げる事情(民事訴訟法三〇五条)に該当し、かつ、それは本件鑑定終了後申立人に明らかとなったものである。」というにある。
二 そこで右申立理由の当否について判断するに、民事訴訟法三〇五条にいう「誠実ニ鑑定ヲ為スコトヲ妨クヘキ事情」とは、単に鑑定人が不誠実な鑑定をなすおそれがあると当事者が主観的に推測するだけでは足りず、鑑定人と当事者との関係、鑑定人と事件との関係等から鑑定人が不誠実な鑑定をなすであろうとの疑惑を当事者に起こさせるに足りる客観的事情を指すものというべきところ、申立人提出の疎明資料によれば、鑑定人師田昇は、昭和五七年五月一日、東京都足立区神石に所在し、内科、呼吸器科、胃腸科、麻酔科、外科、整形外科、放射線科を診療科目とし、一八のベッド数と非常勤を含む医師六名を擁する浜野医院の院長に就任したことが認められるけれども、そのような事実が存在すること、あるいは右鑑定人が本件鑑定を受任するに際し、自ら積極的に右事実の存在を申し出なかったことをもって、直ちに不誠実な鑑定を疑わせる前記客観的事情があったものとは到底いいがたく、また、同鑑定人の専門的知識が十分でなかったとしてもこれが前記説示の忌避事由に該当しないことは明らかというべきである。
そして、他に、鑑定人師田昇につき誠実に鑑定をすることを妨げる事情が存在するものと認めるに足りる資料はない。
三 以上の次第で、本件忌避の申立は、その余の判断に及ぶまでもなく、理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 尾方滋 裁判官 菊池徹 齋藤繁道)